*メールマガジン「風切通信 48」 2018年3月26日

 このコラムには時折、読者からコメントが寄せられます。「その通りだ」と共感してくださる方もいれば、「でたらめな事を書くんじゃない」とお叱りを受けることもあります。つくづく、世の中にはいろんな人がいるものだ、と感じさせられます。

 コメントは、コラムの発信から数日以内に寄せられることが多いのですが、昨日は珍しいことに、1年前の3月14日に書いた「森友学園問題で公明党が沈黙する理由」への投稿がありました。「トラ・イシカワ(表記はTra ishikawa))」さんからのコメントで、次のような内容でした。

null

 「実質200万の出費で手に入れた9億の土地を担保に、21億の融資をしてもらう話。それをまとめるために、安倍は国会開催中の忙しい中、大阪に飛んだのである。総理大臣が金にもならない話のために半日、時間を割くわけがない。21億の融資が入れば、最大の功労者に10?20%が召し上げられる。ブローカーの公明代議士の子息には3?5%か。モリトモの最終的な狙いは数億円単位のヤミ献金だったはず。しかし、あまりにあからさまで、認可だ、土地貸借だ、売買だと、かかわった人間が多すぎたために、知る人ぞ知る『安倍案件』として噂になってしまい、そのうえ、獲物の分け前で、籠池側と安倍側で仲間割れになってしまい、その筋書きが狂ってしまったために、夫婦は知らなかった、関わりなかったことにしておけと改竄疑獄事件になってしまった」

 一読して、「数学の図形の補助線のような投稿だなぁ」と感心しました。難しそうな図形問題も、一本の補助線を引けば、すっきりと解けることがあります。この投稿に沿って、森友学園問題に「数億円単位のヤミ献金」という補助線を引けば、もやもやしていた謎が解けるのではないか、と。

 投稿の冒頭部分は事実と思われます。森友学園は時価9億円の国有地を1億3400万円で入手しましたが、その後、埋設物除去や土壌汚染対策の名目で1億3200万円の公金が注ぎ込まれていますので、森友側が負担したのはわずか200万円と報じられています。その土地を担保に、小学校の建設費として都市銀行から21億円の融資を受けたのも周知のことです。

 1年前の上記のコラムでも指摘しましたが、森友学園問題でもっとも重要なのは2015年9月3日から5日までの3日間です。どんな3日間だったのか。あらためて、産経新聞に掲載された「安倍日誌」をベースに注釈を加えて、首相と昭恵夫人の動静を記します。

▽9月3日 午後2時17分から財務省の岡本薫明官房長、迫田(さこた)英典・理財局長に会う(注:迫田氏は首相と同じ山口県出身で旧知の仲。その後、国税庁長官に栄進。理財局長、国税庁長官とも後任は佐川宣寿氏)
▽9月4日 午前、羽田空港から全日空機で伊丹空港へ。午後1時半から読売テレビで番組の収録。午後4時7分、大阪市北区の海鮮料理店「かき鉄」で故冬柴鉄三・元国土交通相の次男、大(ひろし)さん、秘書官らと食事(注:同席した首相秘書官は今井尚哉<たかや>氏。経済産業省の官僚)
▽9月5日 前夜、大阪から帰京した首相は私邸で過ごす。昭恵夫人は森友学園経営の幼稚園で講演し、開校予定の小学校の名誉校長に就任

 この時期、国会は安倍政権が重要課題としていた安全保障関連法案の審議が大詰めを迎えていました。衆議院は通過したものの、参議院での審議が難航、法案が成立するかどうか、ギリギリの攻防が続いていました。その最中に、安倍首相は大阪を訪問したのです。参議院で野党と対峙していた自民党の鴻池祥肇(よしただ)参院平和安全法制特別委員長が「一国の首相としてどういったものか」と苦言を呈したのも当然でしょう。

 こうした状況を踏まえれば、導かれる解は「首相にとって重要法案の審議より優先度の高い案件が大阪にあった」というものです。訪問の前日に財務省の高官を呼んで十分に経緯を把握し、大阪では森友学園と国の仲介役と懇談して内容を固め、その翌日に昭恵夫人が現地で講演をして名誉校長を引き受けた、その見返りが億単位のヤミ献金、というのが投稿の趣旨です。

 与党公明党の大物代議士だった冬柴元国交相の次男、大氏は、りそな銀行の前身である大和銀行に1986年に入行し、最初に豊中支店に配属されました。森友学園の小学校の建設予定地、豊中市で銀行員として働いていたのですから、土地勘も十分でしょう。首相とは父親を介しての縁もあります。りそな銀行を退職した後は、「冬柴パートナーズ」というコンサルタント会社を経営していますので、ブローカー役として彼以上の適任者は見つからないほどです。

 安倍首相と冬柴大氏との会食に今井尚哉秘書官が同席していたことも、この懇談がきわめて重要なものだったことを示しています。今井氏は、叔父の今井善衛氏が岸信介・元首相と商工省の官僚同士、同じ叔父の今井敬氏が元経団連会長で、「経産省のサラブレッド」と称されました。安倍政権の発足以降、首相の懐刀として辣腕を振るっている人物です。昭恵夫人の秘書を務めた谷査恵子氏も今井氏の部下です。

 この補助線の通りであるならば、安倍首相は「森友問題には一切関係していない。妻が応援していただけ」どころか、夫唱婦随、息の合った連携プレーだったことになります。首相夫妻を支えた2人の秘書も上司とその部下です。財務省の佐川理財局長らが決裁文書を書き換えてまで昭恵夫人の関与を隠し通そうとしたのも納得がいきます。

 そうであるならば、事の真相を知悉(ちしつ)しているのは、隠蔽役の佐川・元理財局長らではなく、首相本人と夫人、首相秘書官、ブローカー役を果たしたと見られる冬柴大氏である、ということになります。佐川氏の国会喚問は、森友疑惑解明の第一幕に過ぎません。第二幕、第三幕と進まなければ、真相は一向に見えてこないでしょう。

 小泉進次郎議員が言う通り、森友学園問題は「ポスト平成の政治の形とは何なのか。そういった問題にまでつながっていくような、平成の政治史に残る大きな事件」であり、うやむやのまま幕を引けるような疑惑ではありません。



≪参考サイト≫
◎コラム「森友学園問題で公明党が沈黙する理由」(情報屋台、2017年3月14日)
http://www.johoyatai.com/1055
◎森友学園の小学校建設費「21億8000万円」の調達先(日刊ゲンダイ)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/200917
◎安倍首相の動静(産経新聞の「安倍日誌」2015年9月3日)
http://www.sankei.com//politics/print/150904/plt1509040010-c.html
◎今井尚哉首相秘書官の経歴(ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%8A%E4%BA%95%E5%B0%9A%E5%93%89
◎コンサルタント会社「冬柴パートナーズ」の概要と冬柴大氏の略歴(同社のサイト)
http://fuyushiba.com/aisatsu.htm
◎小泉進次郎・自民党筆頭副幹事長の記者団への発言(朝日新聞デジタル)
https://www.asahi.com/articles/ASL3T55DNL3TUTFK00P.html


≪写真説明&Source≫
◎大阪の料理店「かき鉄」で会食する安倍晋三首相と冬柴大氏(右端、後ろ姿)。首相の左隣が今井尚哉首相秘書官(情報サイト阿修羅)
http://www.asyura2.com/17/senkyo221/msg/584.html