*メールマガジン「おおや通信 88」 2012年8月10日


 本業のほかに名刺をもう1枚作ろう。そんなスローガンを掲げて、3年前に東京で小さなNPO(非営利組織)が産声を上げた。「二枚目の名刺」というNPOだ。

 「仕事に精を出しつつ、社会貢献活動にも取り組もう。それが自分を変え、やがて社会をも変えていく。一歩、踏み出そう」。代表の廣(ひろ)優樹さんはそう呼びかける。仕事一筋の生き方から、複線型のゆったりとしたライフスタイルへの転換を訴えている。

 小学校の校長をしながら、私も地域おこしの活動を始めた。過疎化が進む故郷が少しでも元気になる道はないのか。地域を歩き回り、周りの人たちと語り合う中で目を向けたのが最上川だった。「母なる川」という美名とは裏腹に、最上川は汚れが目立つ。地元の人たちは、大人も子供もあまり近づかなくなった。

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カヌーの愛好家が「日本一の流れ」と激賞する最上川の「タンの瀬」

 そんな中で、朝日町にある最上川の激流に集う人々がいた。カヌーの愛好家である。首都圏や関西から来た人たちに聞くと「ここの流れは日本一だ」と言う。一緒に最上川をカヌーで下ってみた。私はまったくの初心者。たちまち転覆し、しこたま水を飲んでしまった。だが、そこには確かに、見たこともない厳かな風景が広がっていた。

 2年前に「ブナの森」というNPOを立ち上げ、カヌーで最上川を50キロほど下る企画の実現に乗り出した。速さを競うレースではなく、1泊2日で最上川の流れを楽しむイベントを目指した。資金は寄付頼みで、心もとない。昨年の大震災後は活動も停滞した。それでも、地域おこしを支援してくださる方々やカヌーの愛好家に支えられて、7月末になんとか開催に漕ぎ着けた。

 イベントの名称は「最上川縦断カヌー探訪」という。これで地域が元気になるのか。定かではない。けれども、人と人とのつながりは確実に広がった

 *8月10日付の朝日新聞山形県版のコラム「学びの庭から」(5)
  写真は紙面に掲載されたものとは異なります。