権力の闇に切り込まない日本の主要メディア
久しぶりに文春砲の連続弾が炸裂している。週刊文春の今回の標的は、岸田文雄首相の懐刀とされる木原誠二・官房副長官である。疑惑の内容は「木原氏の妻の元夫は殺害された可能性がある」というものだ。
週刊文春や木原氏の公式サイトなどによれば、木原氏は1970年6月生まれの53歳。東大法学部を卒業した後、大蔵省(現財務省)に入り、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに留学、2005年の郵政解散選挙で東京20区から自民党候補として立候補、当選した。
高祖父は諫早銀行頭取、曾祖父は大蔵省銀行課長という「財政金融ファミリー」の出身で、自らもその道に進んだが、英国大蔵省に出向した際、サッチャー元首相と出会い、政治を志したという。語学力も生かし、岸田政権では外交・安全保障分野で重要な役割を果たしている。
その木原氏の結婚相手は、元モデルで銀座のホステルをしていた女性だった。この女性には夫、安田種雄氏がいたが、同じくモデルだった種雄氏は2006年4月に自宅で変死体となって発見された。遺体から致死量の覚醒剤が検出されたことから、所轄の大塚警察署は「自殺」として処理した。
ところが、2018年、この対応に疑問を抱いた現場の刑事が遺族の協力を得て再捜査を始めた。遺族によれば、元夫には喉元から肺にまで達する傷があり、ナイフが足元に置かれていたという。ほかにも不審なことがいくつもあり、殺人事件の捜査にあたる警視庁の刑事たちも乗り出した。刑事たちは木原氏の妻の事情聴取や家宅捜索にこぎつけたが、捜査は「上からの指示」で突然、打ち切られたという。
7月27日の文春オンラインによれば、この再捜査にあたったベテラン刑事の佐藤誠警部補(昨年退職)は再捜査の経緯と打ち切りに至った事情を詳細に語った。佐藤氏は文春の記者に「当時から我々はホシを挙げるために全力で捜査に当たってきた。ところが、志半ばで中断させられた」と述べた。
佐藤氏が実名での告発を決断したきっかけは、一連の週刊文春の報道を受けて、警察庁の露木康浩長官が7月13日の定例会見で「証拠上、事件性が認められないと警視庁が明らかにしている」と語ったことだという。
この警察庁長官発言について、佐藤元警部補は「頭に来た。あの発言は真面目に仕事してきた俺たちを馬鹿にしている」と述べ、事件の捜査が上からの圧力で潰されたと、上司の名前も挙げて明言した。そして、捜査の過程で捜索令状を得て、DNAを採取するため、すでに木原誠二氏と再婚していたこの女性の採尿と採血を試みたところ、木原氏は「オマエなんて、いつでもクビ飛ばせるぞ!」と恫喝したのだという。
不可解なのは、この事件について主要な新聞やテレビがほとんど報じないことだ。元夫の遺族は警察に再捜査を求める上申書を出し、今年の7月20日には司法クラブで事件の解明を求める会見を開いたが、東京新聞など一部を除いて主要メディアは黙殺した。その一方で、木原氏の弁護士が「週刊文春の報道で(木原氏の妻の)人権侵害が起こる可能性がある」として日本弁護士連合会に人権救済の申し立てをしたことは、しっかり報じた。
一連の経緯を見て思うのは、「これはジャニー喜多川氏による性加害への対応とまるで同じ」ということだ。週刊文春が何度、性加害を報じても主要メディアは完全に黙殺した。英国のBBCが今年の3月に特報すると、やっと後追いする始末だった。
性加害事件ではジャニーズ事務所が芸能界やテレビ局に持つ巨大な影響力に怯えて、沈黙した。それに比べれば、木原官房副長官が持つ影響力ははるかに強大だ。今度も、権力に怯えて模様眺めを決め込んだ、ということだろう。
全国紙やNHK、民放各局は警視庁の記者クラブに何人もの記者を常駐させている。週刊文春には失礼ながら、文春よりはるかに人手も金もある。本気になれば、文春砲など吹き飛ばせるだけの材料を集められるはずだ。が、なにせ、本気になることがない。
それで「読者の新聞離れ」だの「視聴者のテレビ離れ」だのと愚痴を吐いても、誰も相手にするわけがない。しかるべき報酬を得て、しかるべき処遇を得ているのならば、報道の道を選んだ者としての気概と誇りを示したらどうか。
木原誠二・官房副長官の公式サイトには「誠心誠意、政策で!!」とのスローガンが掲げられている。ある賢人によれば、「人は自ら持ち合わせないものを掲げたがるものだ」という。けだし、名言と言うべきか。
(長岡 昇:NPO「ブナの森」代表)
*初出:ウェブコラム「情報屋台」 2023年7月27日
http://www.johoyatai.com/6140
≪写真説明≫
◎木原誠二・官房副長官
https://sakisiru.jp/44823
◎木原誠二氏の妻(ニュースサイト「One More News」)
https://one-more-life.jp/kihara-seiji-family/
◎事件の再捜査を求める元夫の父親(東京新聞のサイト)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/264383
≪参考記事&サイト≫
◎文春オンライン スクープ速報(2023年7月27日)など、一連の週刊文春の報道
https://bunshun.jp/articles/-/64612
◎木原誠二氏の公式サイト
https://kiharaseiji.com/
◎木原誠二氏の妻について(One More News)
https://one-more-life.jp/kihara-seiji-family/
◎事件の再捜査を訴える元夫の父親(東京新聞のサイト)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/264383
◎木原誠二の妻の元夫は人気モデル
https://emasora.com/kiharaseiji-wife-exhusband/
週刊文春や木原氏の公式サイトなどによれば、木原氏は1970年6月生まれの53歳。東大法学部を卒業した後、大蔵省(現財務省)に入り、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに留学、2005年の郵政解散選挙で東京20区から自民党候補として立候補、当選した。
高祖父は諫早銀行頭取、曾祖父は大蔵省銀行課長という「財政金融ファミリー」の出身で、自らもその道に進んだが、英国大蔵省に出向した際、サッチャー元首相と出会い、政治を志したという。語学力も生かし、岸田政権では外交・安全保障分野で重要な役割を果たしている。
その木原氏の結婚相手は、元モデルで銀座のホステルをしていた女性だった。この女性には夫、安田種雄氏がいたが、同じくモデルだった種雄氏は2006年4月に自宅で変死体となって発見された。遺体から致死量の覚醒剤が検出されたことから、所轄の大塚警察署は「自殺」として処理した。
ところが、2018年、この対応に疑問を抱いた現場の刑事が遺族の協力を得て再捜査を始めた。遺族によれば、元夫には喉元から肺にまで達する傷があり、ナイフが足元に置かれていたという。ほかにも不審なことがいくつもあり、殺人事件の捜査にあたる警視庁の刑事たちも乗り出した。刑事たちは木原氏の妻の事情聴取や家宅捜索にこぎつけたが、捜査は「上からの指示」で突然、打ち切られたという。
7月27日の文春オンラインによれば、この再捜査にあたったベテラン刑事の佐藤誠警部補(昨年退職)は再捜査の経緯と打ち切りに至った事情を詳細に語った。佐藤氏は文春の記者に「当時から我々はホシを挙げるために全力で捜査に当たってきた。ところが、志半ばで中断させられた」と述べた。
佐藤氏が実名での告発を決断したきっかけは、一連の週刊文春の報道を受けて、警察庁の露木康浩長官が7月13日の定例会見で「証拠上、事件性が認められないと警視庁が明らかにしている」と語ったことだという。
この警察庁長官発言について、佐藤元警部補は「頭に来た。あの発言は真面目に仕事してきた俺たちを馬鹿にしている」と述べ、事件の捜査が上からの圧力で潰されたと、上司の名前も挙げて明言した。そして、捜査の過程で捜索令状を得て、DNAを採取するため、すでに木原誠二氏と再婚していたこの女性の採尿と採血を試みたところ、木原氏は「オマエなんて、いつでもクビ飛ばせるぞ!」と恫喝したのだという。
不可解なのは、この事件について主要な新聞やテレビがほとんど報じないことだ。元夫の遺族は警察に再捜査を求める上申書を出し、今年の7月20日には司法クラブで事件の解明を求める会見を開いたが、東京新聞など一部を除いて主要メディアは黙殺した。その一方で、木原氏の弁護士が「週刊文春の報道で(木原氏の妻の)人権侵害が起こる可能性がある」として日本弁護士連合会に人権救済の申し立てをしたことは、しっかり報じた。
一連の経緯を見て思うのは、「これはジャニー喜多川氏による性加害への対応とまるで同じ」ということだ。週刊文春が何度、性加害を報じても主要メディアは完全に黙殺した。英国のBBCが今年の3月に特報すると、やっと後追いする始末だった。
性加害事件ではジャニーズ事務所が芸能界やテレビ局に持つ巨大な影響力に怯えて、沈黙した。それに比べれば、木原官房副長官が持つ影響力ははるかに強大だ。今度も、権力に怯えて模様眺めを決め込んだ、ということだろう。
全国紙やNHK、民放各局は警視庁の記者クラブに何人もの記者を常駐させている。週刊文春には失礼ながら、文春よりはるかに人手も金もある。本気になれば、文春砲など吹き飛ばせるだけの材料を集められるはずだ。が、なにせ、本気になることがない。
それで「読者の新聞離れ」だの「視聴者のテレビ離れ」だのと愚痴を吐いても、誰も相手にするわけがない。しかるべき報酬を得て、しかるべき処遇を得ているのならば、報道の道を選んだ者としての気概と誇りを示したらどうか。
木原誠二・官房副長官の公式サイトには「誠心誠意、政策で!!」とのスローガンが掲げられている。ある賢人によれば、「人は自ら持ち合わせないものを掲げたがるものだ」という。けだし、名言と言うべきか。
(長岡 昇:NPO「ブナの森」代表)
*初出:ウェブコラム「情報屋台」 2023年7月27日
http://www.johoyatai.com/6140
≪写真説明≫
◎木原誠二・官房副長官
https://sakisiru.jp/44823
◎木原誠二氏の妻(ニュースサイト「One More News」)
https://one-more-life.jp/kihara-seiji-family/
◎事件の再捜査を求める元夫の父親(東京新聞のサイト)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/264383
≪参考記事&サイト≫
◎文春オンライン スクープ速報(2023年7月27日)など、一連の週刊文春の報道
https://bunshun.jp/articles/-/64612
◎木原誠二氏の公式サイト
https://kiharaseiji.com/
◎木原誠二氏の妻について(One More News)
https://one-more-life.jp/kihara-seiji-family/
◎事件の再捜査を訴える元夫の父親(東京新聞のサイト)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/264383
◎木原誠二の妻の元夫は人気モデル
https://emasora.com/kiharaseiji-wife-exhusband/