山形県知事の情報不開示 、審査会も「不当」と答申
山形県の吉村美栄子知事が下した情報不開示決定について、また新たな動きがあった。吉村知事は「開かれた県政」「県政の見える化」などと綺麗ごとを口にするが、実際の行動は真逆だ。自分や取り巻きとって都合の悪い情報は、平気で隠そうとする。
義理のいとこ、吉村和文氏が理事長を務める学校法人東海山形学園から、同じく和文氏が社長をしているダイバーシティメディア(旧ケーブルテレビ山形)に3000万円の融資が行われた問題をめぐる対応は、その典型である。
学校法人が民間企業から金を借りたのなら、まだ分かる。が、その反対だ。国や県から毎年3億円もの私学助成を受け取っている学校法人が、2016年3月にグループ企業にその1割に相当する金を貸してあげた、というからあきれる。
この融資については、ダイバーシティメディアの公式サイトに決算公告がアップされており、その貸借対照表に明記してある。いわば「周知の事実」なのだが、念のため、学校法人の財務書類でも確認したいと考え、私は山形県が保有する財務書類を情報公開するよう求めた。すんなり出てくる、と思っていた。
ところが、県は財務書類の詳細な部分を白く塗りつぶして開示してきた(一部不開示)。理由は「法人の内部管理に関する情報であって、開示することにより法人の正当な利益を害するおそれがあるため」(県情報公開条例第6条)というものだった。
県の言い分をもう少し丁寧に紹介する。学校法人の財務書類が全面的に明らかにされれば、学校経営の秘密やノウハウが他の高校の関係者の知るところとなり、その学校の競争力を損ね、利益を大きく害することも十分に考えられる、というものだ。
貸借対照表などの財務書類がどういうものか、まるで理解していない空理空論である。一部上場企業は、そうした財務書類を公開することが法的に義務付けられている。それによって「ライバル企業から秘密やノウハウを盗まれ、損をした」などという話は聞いたこともない。財務書類とはそもそも、そうしたことが生じるようなものではないからだ。
「こんな理屈は通るはずがない」と思ったが、それが甘かった。裁判に訴え、「情報不開示処分の取り消し」を求めたところ、山形地方裁判所の裁判官は県の言い分を認めてしまった。「世の中には浮世離れした人もいる」ということを忘れていた。
脇を固めて論理を練り直し、仙台高等裁判所に控訴した。その顚末(てんまつ)はこのサイトの2020年5月1日付のコラムで詳しく紹介したので省くが、仙台高裁の裁判官は今年の3月、県側の主張を一蹴し、財務書類を全面的に開示するよう命じた。
財務書類とはどういうものか。公共性の高い学校法人はどのような説明責任を果たすべきか。情報公開制度はどのような意義を持っているのか。こちらの主張を全面的に認める逆転判決だった。
けれども、吉村知事はそれでへこたれるような政治家ではない。仙台高裁のまっとうな判決に背を向け、すぐさま最高裁判所に上告した。未来に向けて、情報公開制度をどうやって充実したものにしていくのか、といったことにはまるで関心がないようだ。
もう一つの情報不開示は、もっとひどい。
同じ人物が代表を務める会社と法人の間で金の貸し借りをするのは「利益相反行為」になる。一方が得をすれば、もう一方は損をする関係にあるからだ。私立学校法はこうした場合、不正が起きないよう、所轄庁(山形県)は利害関係のない第三者を特別代理人に選んでチェックさせなさい、と規定していた。
そこで、山形県は法律で義務付けられていることを実際に行ったのか、それを知るために特別代理人の選任に関する公文書の開示を請求した。すると、「そういう文書があるかどうかも言えない」と回答してきた(2018年10月23日付)。
「存否(そんぴ)応答拒否」という対応だ。文書を白塗りにして隠すより、もっとこずるい情報隠しだ。理由は、前回と同じく「法人の正当な利益を害するおそれがあるから」である。
確かに、山形県情報公開条例には存否応答拒否もできる、と書いてある。けれども、それは「個人の措置入院に関する文書」や「生活保護の申請書類」「特定企業の開発・投資計画」などが情報公開請求の対象になった場合だ。
こうしたケースでは、それに関する公文書があることを明らかにしただけで、個人や企業の権利を侵害するおそれがある。誰もが納得できる事例だ。その例外的な規定を「法律で義務付けられている行政行為をしたかどうか」を記した公文書の開示請求に対して適用したのである。
「苦し紛れの支離滅裂な不開示処分」と言わざるを得ない。そうせざるを得ない、何か特別な事情があるのだろう。
裁判を二つも起こすのは大変だ。そこで、知事の諮問機関である県情報公開・個人情報保護審査会に「存否応答拒否は不当なので取り消しを求める」と審査を申し立てた。1年8カ月経って、その答申が7月17日にようやく出された。
審査会は法律の専門家で構成されている。審査したメンバーも県の処分にあきれたのだろう。「県の存否応答拒否の決定を取り消す」と記したうえで、次のように苦言を呈した。
「本事案について示された、存否を明らかにしないで開示をしない旨を決定した理由は、甚だ不十分であると言わざるを得ず、(中略)そもそも不開示決定にあたり、慎重かつ十分な検討が尽くされたのか疑問が残る」
審査会のメンバーは県が選ぶ。内規には「答申を尊重して対応する」とある。吉村知事は答申に沿って、そもそもそういう文書があるかどうかまず明らかにしたうえで、どのように対処するか決めるべきである。
とはいえ、吉村知事はそんな潔い政治家ではない。記者会見で対応を問われると、「(これから)裁決に向けた手続きを進めていくので、この段階で所感を申し上げることは差し控えたい」と逃げた。「答申を尊重する」という言葉はついに出なかった。
山形県の公式サイトの「知事室」というコーナーに、記者会見の様子を撮影した動画がアップされている。役人が用意した文章を棒読みし、想定外の質問が出るとオロオロする様子が映っている。
山形県の知事は、情報公開という重要な問題について自分の頭で考え、自分の言葉で語ることができない。悲しい政治家だ。
*メールマガジン「風切通信 77」 2020年8月20日
*このコラムは、月刊『素晴らしい山形』の2020年8月号に寄稿した文章を若干手直ししたものです。
≪山形県情報公開・個人情報保護審査会の答申全文 2020年7月17日≫
≪写真説明≫
地域月刊誌『素晴らしい山形』2020年8月号の表紙のイラスト
人物は山形県の吉村美栄子知事と義理のいとこ吉村和文氏
義理のいとこ、吉村和文氏が理事長を務める学校法人東海山形学園から、同じく和文氏が社長をしているダイバーシティメディア(旧ケーブルテレビ山形)に3000万円の融資が行われた問題をめぐる対応は、その典型である。
学校法人が民間企業から金を借りたのなら、まだ分かる。が、その反対だ。国や県から毎年3億円もの私学助成を受け取っている学校法人が、2016年3月にグループ企業にその1割に相当する金を貸してあげた、というからあきれる。
この融資については、ダイバーシティメディアの公式サイトに決算公告がアップされており、その貸借対照表に明記してある。いわば「周知の事実」なのだが、念のため、学校法人の財務書類でも確認したいと考え、私は山形県が保有する財務書類を情報公開するよう求めた。すんなり出てくる、と思っていた。
ところが、県は財務書類の詳細な部分を白く塗りつぶして開示してきた(一部不開示)。理由は「法人の内部管理に関する情報であって、開示することにより法人の正当な利益を害するおそれがあるため」(県情報公開条例第6条)というものだった。
県の言い分をもう少し丁寧に紹介する。学校法人の財務書類が全面的に明らかにされれば、学校経営の秘密やノウハウが他の高校の関係者の知るところとなり、その学校の競争力を損ね、利益を大きく害することも十分に考えられる、というものだ。
貸借対照表などの財務書類がどういうものか、まるで理解していない空理空論である。一部上場企業は、そうした財務書類を公開することが法的に義務付けられている。それによって「ライバル企業から秘密やノウハウを盗まれ、損をした」などという話は聞いたこともない。財務書類とはそもそも、そうしたことが生じるようなものではないからだ。
「こんな理屈は通るはずがない」と思ったが、それが甘かった。裁判に訴え、「情報不開示処分の取り消し」を求めたところ、山形地方裁判所の裁判官は県の言い分を認めてしまった。「世の中には浮世離れした人もいる」ということを忘れていた。
脇を固めて論理を練り直し、仙台高等裁判所に控訴した。その顚末(てんまつ)はこのサイトの2020年5月1日付のコラムで詳しく紹介したので省くが、仙台高裁の裁判官は今年の3月、県側の主張を一蹴し、財務書類を全面的に開示するよう命じた。
財務書類とはどういうものか。公共性の高い学校法人はどのような説明責任を果たすべきか。情報公開制度はどのような意義を持っているのか。こちらの主張を全面的に認める逆転判決だった。
けれども、吉村知事はそれでへこたれるような政治家ではない。仙台高裁のまっとうな判決に背を向け、すぐさま最高裁判所に上告した。未来に向けて、情報公開制度をどうやって充実したものにしていくのか、といったことにはまるで関心がないようだ。
もう一つの情報不開示は、もっとひどい。
同じ人物が代表を務める会社と法人の間で金の貸し借りをするのは「利益相反行為」になる。一方が得をすれば、もう一方は損をする関係にあるからだ。私立学校法はこうした場合、不正が起きないよう、所轄庁(山形県)は利害関係のない第三者を特別代理人に選んでチェックさせなさい、と規定していた。
そこで、山形県は法律で義務付けられていることを実際に行ったのか、それを知るために特別代理人の選任に関する公文書の開示を請求した。すると、「そういう文書があるかどうかも言えない」と回答してきた(2018年10月23日付)。
「存否(そんぴ)応答拒否」という対応だ。文書を白塗りにして隠すより、もっとこずるい情報隠しだ。理由は、前回と同じく「法人の正当な利益を害するおそれがあるから」である。
確かに、山形県情報公開条例には存否応答拒否もできる、と書いてある。けれども、それは「個人の措置入院に関する文書」や「生活保護の申請書類」「特定企業の開発・投資計画」などが情報公開請求の対象になった場合だ。
こうしたケースでは、それに関する公文書があることを明らかにしただけで、個人や企業の権利を侵害するおそれがある。誰もが納得できる事例だ。その例外的な規定を「法律で義務付けられている行政行為をしたかどうか」を記した公文書の開示請求に対して適用したのである。
「苦し紛れの支離滅裂な不開示処分」と言わざるを得ない。そうせざるを得ない、何か特別な事情があるのだろう。
裁判を二つも起こすのは大変だ。そこで、知事の諮問機関である県情報公開・個人情報保護審査会に「存否応答拒否は不当なので取り消しを求める」と審査を申し立てた。1年8カ月経って、その答申が7月17日にようやく出された。
審査会は法律の専門家で構成されている。審査したメンバーも県の処分にあきれたのだろう。「県の存否応答拒否の決定を取り消す」と記したうえで、次のように苦言を呈した。
「本事案について示された、存否を明らかにしないで開示をしない旨を決定した理由は、甚だ不十分であると言わざるを得ず、(中略)そもそも不開示決定にあたり、慎重かつ十分な検討が尽くされたのか疑問が残る」
審査会のメンバーは県が選ぶ。内規には「答申を尊重して対応する」とある。吉村知事は答申に沿って、そもそもそういう文書があるかどうかまず明らかにしたうえで、どのように対処するか決めるべきである。
とはいえ、吉村知事はそんな潔い政治家ではない。記者会見で対応を問われると、「(これから)裁決に向けた手続きを進めていくので、この段階で所感を申し上げることは差し控えたい」と逃げた。「答申を尊重する」という言葉はついに出なかった。
山形県の公式サイトの「知事室」というコーナーに、記者会見の様子を撮影した動画がアップされている。役人が用意した文章を棒読みし、想定外の質問が出るとオロオロする様子が映っている。
山形県の知事は、情報公開という重要な問題について自分の頭で考え、自分の言葉で語ることができない。悲しい政治家だ。
*メールマガジン「風切通信 77」 2020年8月20日
*このコラムは、月刊『素晴らしい山形』の2020年8月号に寄稿した文章を若干手直ししたものです。
≪山形県情報公開・個人情報保護審査会の答申全文 2020年7月17日≫
≪写真説明≫
地域月刊誌『素晴らしい山形』2020年8月号の表紙のイラスト
人物は山形県の吉村美栄子知事と義理のいとこ吉村和文氏